■はじめに
海田悠は、“写真家”であり“カメラマン”ではない。
被写体を正確に確実にそのまま撮ることよりは、自分の作品として・・・言い換えれば、キャンパスに絵画を描く「芸術家のような態度」で写真制作に臨むからである。つまり、“写真家”という“もの創りの匠”である。特に近年、四国で自ら制作する“和紙”を印画紙がわりに使用するようになってから、何枚も同じものがプリントできる写真ではなく、一枚の絵としての完成度を高めていく。これが、海田のひとつのスタイルになってきた。それは“一枚の写真”ではなく、写真家が描く“一枚の絵画”のようである。
そんな海田のスタイルをアナログの“和紙”同様、もう一方で支えているのが“デジタル技術”である。海田は、早くからデジタルで制作することに目覚め、アナログのカメラ を置き、撮影からプリントまでを一貫してデジタルで行ってきた。そのきっかけは、銀座セントラル美術館にて1988年に開催された「現在活躍中のアーティスト28人によるスーパーデザイニング」への参加である。デジタル機器を駆使した表現との出会いの場であった。
現在、海田が写真家として活動してから30年以上経過しているが、その間、海田が撮影テーマにした主なものは“肖像”“舞台”“風景”である。
では、その一つづつをご紹介していく。 |
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■肖像
海田悠の作品は、基本的には<肖像写真>が中心である。
海田の最初の写真集「経営者の肖像」(1993年・講談社)から、肖像写真がひとつのテーマになり、“肖像写真家”が彼のひとつの肩書ともなった。被写体の経営者や表現者、政治家などの各人物と対峙しながら撮っていく感覚は独特で、海田の人なつっこさや巧みな撮影の雰囲気つくりから引き出される被写体の本音の部分や普段見せない部分を見事に捕らえ、表現している。特に、政界や表現者の各氏を撮影した際には、マスコミに様々に登場する彼らの表情とは、確実に異なる見ごたえのあるものだった。ただ人物を前にして撮るのではなく、海田の世界へ引き込んで撮る。海田のスタイルの原点がそこにある。
肖像写真・作品
・「経営者の肖像」(1993年)
・「日本の女将」(1999年)
・「表現者の肖像」(2000年)
・「ふだん着の政治家」(2003年)
・「新・経営者の肖像」(2003年) |
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■舞台
きっかけは、表現者の撮影で出会った“市川猿之助丈”である。
海田が撮った「表現者の肖像」(2000年・マルチグラフィックス)の中で、市川猿之助丈との出会いから、彼を海田が稽古場まで追っかけて撮影していく中、必然的に、舞台の猿之助丈にもカメラをむけ、<舞台写真>を撮るようになった。変幻自在に変わる舞台背景に併せて、常に露出やシャッタースピードを計算しながら作品として撮っていく。かなり、スピードが要求され、一瞬を盗む。猿之助丈やその一門を撮った様々な写真集。そんな匠な術が、次の舞台写真である「FESTA2003」(2003年・アートデイズ)にも活かされ、歌舞伎とは違ったバレエの舞台写真の作品が完成された。新たな海田の作品分野として“舞台写真”が確立したのである。
舞台写真・作品
・「猿之助夢見る姿 スーパー歌舞伎『新・三国志』のできるまで」(2003年)
・「FESTA2003」(2003年) |
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■風景
カメラマンとして、写真家として当たり前には風景は撮っていた海田。しかし、2006年のモンゴルへの撮影旅行で、その単調で静かな砂漠に接し、海田は新たな創作意欲がわいてきた。その結果、得意のデジタル技術を駆使して“風景写真”の分野にもアプローチした。それが、「蜃気楼・シルクロード展」(2007年・ポーラミュージアム・アネックスにて開催)である。完全にアナログの“和紙”とデジタルな技術の二つを駆使することで、プリントした写真という概念から、あたかも筆で書いた“一枚の絵画”のように仕上げた作品は、どれも海田の今までの作品とは異なる別の世界観が見える。それは、2007年末から撮影を始めた富士山も同様な世界観を創造した。
アプローチが新たな撮影分野やテーマを生み出した結果、海田の作品の枠が広がったひとつの例でもある。 |
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■商業写真
海田悠は、若い頃は商業写真も撮影していた。食べるためのカメラマンとしての仕事である。家電をはじめ様々なものを撮った。言わば、カメラマンとして技術を磨く“修行の時代”だったと言っても過言ではない。仲間と写真事務所を開設し、そこから海田の写真家人生がはじまった。 |
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■その他
海田は偏屈ではない。また、頑固な芸術家でもない。だから、自分が納得したり、興味がわけば何でも撮る。そんな作品の中には、長く生活をともにしていた愛犬もいる。また、街角でふと眼にとまった光景などへのアプローチもある。こだわりのない、まるで少年のような好奇心で挑む海田の撮影スタイルは、あらゆるものへこだわりなくレンズは向けられる。 |
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| (文責:プロデューサー谷口功) |